続・パッシブデザインの問題点

前に挙げた「パッシブデザインの問題点」ですが、だいぶ沢山の人に見ていただいたようで、アクセス数も、かつてないほど上がって、ちょっと驚きました。

「断熱性能を軽視している」と否定的な感想をもらったりもしたわけですが、今回もう少し踏み込んでお伝えしてみようと思います。

 

「クライマティックデザイン」という思想

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奥村先生の1995年の著書に、「パッシブデザインとOMソーラー」があります。

空気集熱のバイブルといってもいい本なのですが、その最初に、「クライマティックデザイン」という言葉が出てきます。
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建物と中と外を、遮断するのではなく、むしろ外部との応答特性をうまく調節することで、建物内に小さな微気候を作り、室内環境を改善していくことを述べています。

直接的に言い換えると、自然から得られるエネルギーを集熱や蓄熱といった技法で、ゆるやかで人間に望ましい範囲の環境を建物の中に作り出すことが大事であるとしています。

また、奥村先生は「もうすぐ死にそうな人なら恒温恒湿な変動の無い環境が必要であるが、健康な人間であれば、自然の応答の中で生まれる非線形のリズムというものを持った環境に身をおいて暮らすことが望ましい」ということも述べられています。

この、「自然のリズムを持った環境が望ましい」という建築の思想が、高断熱化が進んでいる現在の日本の住宅事情において、なお有効なのか、あるいは、もはや古臭い捨て去るべきものなのかを、是非とも考えてほしいと思っています。

 

クライマティックデザインのある暮らし

なぜ、「自然のリズムのある環境」を大事に思うようになったのかということですが、一つには、今度出版される、『《そよ風》が好き』という本のために行った取材活動にあります。
この本は、日本全国、仙台から屋久島まで10名のそよ風の家の住まい手へのインタビューを足掛け2年にわたって行ない、まとめたものですが、この取材を通して、《そよ風》の家に住む人達の精神的な豊かさを感じるようになりました。
家庭菜園や自然散策、薪ストーブ、DIY・・・都会にいるか田舎暮らしをしているかにかかわらず、積極的に自然をライフスタイルに取り入れ、様々なことを楽しみながら豊かに暮らしていることに感銘を受けました。
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《そよ風》は、太陽エネルギーや夜間の放射冷却といった、自然現象を、積極的に室内環境に取り入れています。すなわち、先生が紹介された「クライマティックデザインを実現しているシステム」であると言えます。
この自然エネルギーの積極的利用は、住まい手に、ちょっとした自然の変化を敏感に感じさせる効果を産みます
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寒い時期を、単純に冬でひとくくりにするのではなく、冬至の日照時間が低くても、まだ温度が下がりきっていない時期と、立春2月の気温が低くても、日照時間がだいぶ伸びた時期の変化を敏感に気づかせます。
暑い時期を、単純に夏でひとくくりにするのではなく、7月の熱帯夜で、かつ梅雨明け前の、重苦しい感じと、8月の気温が暑くても涼風取り入れが効果を出し始める時期の暑さの違い、3月と4月で、4月と5月で、1月毎に、ちょっとした変化をしていくことを、ソーラーの動き方やお湯の温度で体感しながら暮らします。

「自然のリズムを持った環境の中で暮らせることは、自然と関わりあう暮らしを心がけ、積極的に関わる生活を生むのではないか?」ということを感じ、そのことについて深く考えるようになってきました。

 

高断熱住宅は自然エネルギーを排除する?

一方、建物の高断熱化が、家づくりにどのように影響するのだろうか?と考えたときに、逆に自然エネルギーの利用が難しいがゆえに、それを排除する方向に向かっていくことを懸念しています。
例えばダイレクトゲインを狙って大きな開口部を持つというようなことは、敬遠される傾向にあると考えています。
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コントロールが難しいから、自然エネルギーの影響を極力受けない家づくりを行ないましょう。後は「後はエアコンで、家全体をまかなえればいい」と単純に喧伝され、さらに進むと、「エアコンを止めないほうが電気代が節約できるから、常につけっぱなしで同じ温度に保っておくほうがいい」というふうになってきている感があります。
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その考えを進めると、室内は常に恒温な状態を保つことになります。奥村先生の提唱している「クライマティックデザイン」の概念、「自然と応答したリズムでの生活」はどこかに追いやられたものをパッシブデザインと呼ばれるようになるかもしれません。

その中で、高断熱だから、「遮熱窓や小さな開口部にして外部の影響を排除する」のではなく、高断熱であっても、また、高断熱だからこそ「自然のリズムを持った環境」を持つという考え方があっても良いのではと考えています。

 

高断熱とクライマティックデザインの両立

難しい「高断熱&自然のリズムの両立」を実現する方法として、《そよ風》や《そよ換気》といった空気集熱式ソーラーの導入を検討していただけたらいいなと思っています。

何故なら、《そよ風》には太陽熱を利用した集熱の機能だけではなく、涼風取入や夏排気のような、排熱の機能も兼ね備えており、冬モードと夏モードを季節に合わせて切り替えることができるからです。
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高断熱住宅においても、室温の低下によって暖房エネルギーが必要な時があり、室温の上昇によって排熱をする必要があるならば、後は、システムで、冬モードと夏モードの切り替えの時期をいつにするか、遅いか早いかだけの違いがあるだけです。
極端な話、通常の断熱性能の建物では4月ぐらいで、冬取入モードが終了し、5月ぐらいから夏排気運転が働くのが通常だとしても、高断熱性能の建物では、その機能が一ヶ月早い4月からスタートし、逆に夏モードから冬取入モードが通常、11月になるとして、それが12月に入るまで切り替わる必要が無いということになるのです。
また、一日においても、午前中の気温がまだ上がらないときと、午後の気温が上がってきたところで、集熱モードと排熱モードを切り替えることも可能です。

 

奥村先生がこの本を書かれた25年前と今では確かに断熱への考え方は大きく違っています。それでもなお、「クライマティックデザイン」という建築の思想が、多くの方に受け継がれ、実践してもらえることを願っています。
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