パッシブデザインの問題点

これまで、パッシブデザインについて、その8要素を中心に説明させていただきました。
パッシブデザインの要素を取り入れた住宅にすれば、エネルギーが削減できて快適な住宅が作れるなら、何も問題は無いじゃないかと思われるかもしれません。

しかしながら、パッシブデザインはどのような建物にも当てはめられる万能のものではありません。
特に日本の狭小な土地の上で立てられる住宅事情は、パッシブデザインの工夫の余地を狭めているところがあります。
パッシブデザインの考え方自体は正しいのだけど、導入するには、難しさとジレンマが伴ってしまう・・・

そんなパッシブデザインの問題点について、いくつか例を挙げて考えてみたいと思います。

夏と冬で同じ働きをしてしまう

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たとえば、窓の性能について考えてみます。つくり手に窓はどのような機能があるのですか?と聞いたときには、遮熱Low-Eガラスなどの、日射熱の取得量を抑える製品については、「太陽による日射熱を入れずに遮断して、夏のオーバーヒートを防ぎます」と教わることと思います。
しかしながら、夏対策として取り入れた窓ガラスの日射遮蔽性能は、冬には、「太陽熱エネルギーを室内に取り込むのを防いでいる」という事実に気づくひとはあまりいないようです。
窓ガラスのメーカーは、そのため、太陽熱エネルギーの室内侵入について、「遮熱タイプ」と「断熱タイプ」の2つの異なるタイプの製品を用意して、寒冷地向けとそれ以外で分けて推奨しています。
しかしながら、沖縄や北海道でもない限り、寒冷地でも、夏の暑さは生じますし、温暖地でも、冬の寒さはあるのが普通です。遮熱タイプ、断熱タイプのどちらを選んでも、別の季節には、反対の要因としてマイナスに働いてしまいます。あくまで相対的なものに過ぎないのです。
こうした一例を挙げるまでもなく、一つのパッシブデザインの要素を「夏のための対策」「冬のための対策」と考えて取り入れたことが往々に、別の季節に大変な問題として残ってしまうという、「残念なパッシブデザイン」に終わってしまう例は少なくありません。

南面に十分なスペースが得られないために、窓に十分な日射が当たらない


写真のように、南面の窓から太陽の光が入ってくるように設計するので、ダイレクトゲインが十分得られますよ!・・・というパッシブデザインのお手本のような設計をする人は沢山います。それはそれで、決して間違いではないのですが、それらが十分に効果が得られるのは、「何も遮蔽物が無いとき」のお話です。
特に1階で、窓に、カーテンや障子をつけずに生活する人はほとんどいないと思います。それは丸見えなので防犯上にもプライバシー的にも望ましくなく、日中丸見えで生活をする人はごく限られているからです。

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2階は2階で、多くは通常ベランダで、洗濯物を干しているため、室内まで十分な日射が届かないことが多いです。
外国の大きくて広い庭があり、隣家の目も気にならないような住環境ならともかく、日本の狭小な土地における「窓からダイレクトゲインでぽっかぽか」は、実用的ではないことがままあります。

熱を取得しても、熱を必要とする場所に移動していかない。

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純粋なパッシブデザインで行われる熱移動は、輻射・対流・伝播という自然現象を利用しますが、実はそれだけに頼っていても、本当に必要な場所に熱を移動するにはかなり難しいのです。
暖められた空気はすぐに上に移動してしまいます。これは吹き抜けがあればなおさらです。
家の中で熱が移動していってほしい場所は、日当たりが悪く、地面に近いところ。具体的には、1階北側にある、台所、脱衣所、洗面所といったところでしょう。が、そうしたところは、なかなか思うようには熱が移動してはくれません。
結局、室内で温かいところと寒いところができてしまう結果を産んでしまいます。

風の影響により、意図した方向に空気が流れていかない。

温めれば空気は、上に移動し、換気口や排気口を設けることで、熱を逃がすことができますが、それはあくまで、内外の気圧に差が無い(無風の状態)だった場合です。
風があるときには、空気の動きは予測不可能で、意図した空気の流れと逆の動きをすることがままあります。
極端なケースでは、温めた空気を排熱しようとした仕組みが風の流れによって、逆に室内に流れる動きになってしまうこともあります。

風の流れは、外部の周辺環境によって大きく変化する。

アメダスの気象データを見れば、季節ごとの風向きを調べることは容易に行えます。
それを利用して、風が来る方向に開口部(窓)を設けることで、通風の効果を得ようとする試みをすることは良く見られます。
しかしながら、広い平野にポツンと建てる一軒家でもなければ、風向きは、隣家や木々、山などの建物の外部環境によって容易に変化します。

蓄熱部位を設けられない。

トロンブウォール
日本の家は伝統的に、南に開かれており、大きな開口部(窓)と、ベランダを設けています。
トロンプウォールに代表される南壁面に太陽熱を蓄熱させる方法は、窓やベランダを設けにくくしてしまうため、日本の住宅ではほとんど採用されません。
また、屋根に蓄熱部位を設けるにしても、熱が上に移動する性質のために、あまり効果も得られないほか、屋根に重量の大きな蓄熱体を設置することは建物の耐震性能にも影響を及ぼしてしまいます。
蓄熱部位がなければ、日中の太陽熱を貯められずオーバーヒートするとともに、夜間にまでその影響を持続させることができません。

これらのやっかいさがあるが故に、純粋なパッシブデザインで自然エネルギーの積極的に取得する試みは、成功してないことがままあります。
冬に有効な手法を採用したことが、夏のオーバーヒートを招いたり、夏の有効な手法が、冬に寒さをもたらしたり、結露をもたらしたりという結果に終わってしまうことが多いのです。

日本のパッシブデザインは、断熱に偏っている?

その中で、「パッシブデザイン=断熱の強化」と捉えられていることがままあります。つまり、断熱性能を強化した建物にするために、大きな開口部を設けず、断熱材を分厚く壁に敷き詰めることが、「パッシブデザインである」とするものです。
断熱には、「建築的な手法で建物のエネルギーの消費量を抑える」というパッシブデザインの目的に大きくかなっています。従って断熱強化がまた立派なパッシブデザインであることは間違いありません。
欧米に比較して断熱性能に乏しかった日本の住宅文化事情の反省という側面や、地球温暖化への対策を住宅部門へも求められている国策もあり、今やどの作り手も、あるいは住まい手も、家造りにおける断熱性能への関心を大きく高めています。
《そよ風》で得た太陽エネルギーで暖められた熱を室内に保つためにも断熱は必要ですし、その流れ自体は否定するものではありませんが、あえて言うならば、「断熱を強化する」ということ自体は、自然エネルギーを建築的に利用するものという考え方よりは、むしろ、外部を建物内部に影響させない工夫であるということも理解してもらいたいと思います。
その中で、断熱とそれ以外のパッシブデザインの各要素をどのように取り入れてるのか、つくり手も住まい手も考えながら、取り組むべきものであると思います。

以上まで、パッシブデザインとその導入の難しさを説明させていただきました。

次章では、パッシブデザインの問題点を解決するための手段として開発された、《そよ風》について、「《そよ風》のしくみ」の章で学びます。

[2018-09-12追記]
本頁に関連して、続・パッシブデザインの問題点の記事も書いていましたが、年月が経過し記事が埋没しているので、リンクを貼っておきます。まだ、ご覧になられていない方は、是非ご一読ください。

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